第4戦プレビュー
夏のオートポリスに、何かが起こる
スーパー耐久がオートポリスで行われるようになって、今回で4回目。過去3回はいずれも最終戦として開催され、最初の2回は悪天候に見舞われた。長く続いたセーフティカーランを、記憶している方も少なくはないだろう。ようやく昨年はドライコンディションで戦うことができ、まさに『三度目の正直』となった。今年のキーポイントは、初めて夏に開催されるということだ。意味するのは、今まではそれほど感じなかった、暑さを感じるということである。
暑さがスーパー耐久に限らず、すべてのモータースポーツにとって大敵なのは、もはや言うまでもないだろう。それに苦しめられずに済んだ、従来のオートポリス戦だけに、今回は何が起ころうともおかしくないと思っていてほしい。しかも、突然起こる。
ST-XクラスはENDLESS ADVAN BMW(ST-X +)が一歩リード
何が起こるか分からないということで、今回は各クラスの中間展望をお届けしよう。まずはST-Xクラスだが、2勝を挙げている#3 ENDLESS ADVAN BMW(ST-X +)のYUKE TANIGUCHI/峰尾恭輔/元嶋佑弥組が一歩リードし、#24 スリーボンド日産自動車大学校GT-Rの星野敏/藤井誠暢/高星明誠組を6ポイント差で従えている。さらに2ポイント差で3位は、第2戦を制している、#16 REAF REAL ESTATE KiiVA BMW(ST-X +)の西田裕征/片岡龍也/阿部翼組だ。現時点では三強といった印象が強いが、まだ3戦も残っているだけに、この争いに加わってくるチームの登場を期待したい。
ただし、#3 ENDLESS ADVAN BMW(ST-X +)は第3戦も制したが、それまでの2戦のような勢いはないかもしれない。というのも、第2戦で喫したクラッシュのダメージは予想以上に大きく、モノコックの交換を余儀なくされているからである。本調子ではないマシンをなだめすかし、無理を強いなかったことが勝因となるのだから、今のスーパー耐久は分からない……とさえ、言うことができるだろう。その一方で、2位の#24 スリーボンド日産自動車大学校GT-Rは未勝利ながら、2戦で2位になっており、第2戦で足まわりにトラブルを抱え、それを修理したことで大きな遅れをとりながらも完走を果たしたことが、トップを逃がしていない最大の要因となっている。
その意味において、今年はしぶとくないとチャンピオンになれない。速さだけがすべてではないシーズンだと、ことST-Xクラスには言えるだろう。逆に御難続きなのが、#1 GTNET ADVAN C-WEST GT-RのGAMISAN/星野一樹/吉田広樹組。トラブルに相次いで見舞われ、ようやく第3戦で完走を果たすに留まっているからだ。この時とてアンダーカバーが外れるというトラブルがあり、修復を余儀なくされているから、最初から最後まで全力で走れたわけではない。昨年のチャンピオンチームが天国から地獄に叩き込まれた格好ながら、どこまで這い上がって来れるのか、そして逆襲を果たせるのか気になるところではある。
ST-2クラスはDAMD MOTUL ED WRX STIが逃げの構えに入ったか?
ST-1クラスの年間エントリーが今年はなく、前回ようやく1台がスポットで参戦というのは、何とも寂しい限り。ポルシェのカップカーあたりで新たな参戦を望みたいところだ。今回のようなスポット参戦の可能なレースであれば、九州には優秀なポルシェ使いも多く存在するだけに、胸を借りにきてほしかったもの。
ST-2クラスは、#20 RSオガワADVANランサーの下垣和也/小林且雄/松本武士組が第1戦を制し、幸先のいいスタートを切ったものの、第2戦はエンジントラブルでリタイア。第3戦では2位に甘んじている。第2戦の優勝でトップに躍り出たのは、#59 DAMD MOTUL ED WRX STIの大澤学/松田晃司/吉田寿博組だ。第3戦で連勝を飾ったことで#20 RSオガワADVANランサーに、早くも17ポイントの差をつけている。昨年までのインプレッサとWRX STIは似ているようで似ていない、実は共通部品も少ないということで、開幕前には苦戦も覚悟の上だったが、現実はどうしてどうして。第1戦の予選トップとも合わせ、むしろいきなり快進撃が続く、と言った方が適切な状況である。
このままトップ独走ではシリーズに盛り上がりを欠いてしまうため、逆襲を何とか……と言いたいところだが、もはやランサーエボIXは熟成され尽くして、伸び代がないという声もある。それを見越して、#6新菱オートDIXCELエボXの冨桝朋広/菊地靖/大橋正澄組はエボXにスイッチしたわけだが……。どうしてもストレートパフォーマンスをエボXは欠くということで、今は苦戦を強いられているものの、それこそしぶとさでは負けないチームであるだけに、こつこつとマシンを仕上げて互角に戦えるようになってほしいもの。
一方、同じエボXでも、しっかり結果を残し、ランキングの3位につけるのが#31 HASEPRO RACING LANCER EVOLUTION Xの朝倉貴志/長谷川智秀/長谷川奉徹組だ。GTでもお馴染みのaprが走らせているだけに、シミュレーションがしっかり立てられ、確実に実行しているのが効いているのだろう。そう考えると、このクラスにも地道さが必要ということになる。
ST-3クラスで鍵を握るは、新興勢力のRC350だ
ST-3クラスでは、#34 asset ingsテクノZ34の前嶋秀司/佐々木雅弘/佐藤公哉組が、開幕2連勝を果たし、シリーズを今年も駆け抜けていきそうな勢いがあった。だが、あらかじめシーズン途中のスイッチを明言していたとはいえ、このタイミングでレクサスRC350を投入してくるとは、いったい誰が思っただろうか。安全圏に突入した上で……と考えるのは、どうやら凡人のよう。もうすでに来年を見据え、しかも2台体制を採る可能性が高いため、8時間レースで得られるデータは大きく、貴重だというのがチームの判断だろう。ただし、シェイクダウンはレースウィークとあって、トラブルに見舞われてもそのつど直して完走すると明言していたものの、オーバーヒートやハブトラブル、その他にもあまりの多発にレース続行は危険と、リタイアを余儀なくされたが、実際に得られたものは大きかったはず。
その間に、優勝を飾ったのが同じRC350、#62 DENSO Le Beausset RC350の嵯峨宏紀/新田守男/中山雄一組だったのは、少々意外な感もあった。何せチームにとっては、これがスーパー耐久のデビュー戦であるばかりか、初めて走らせるツーリングカーだったからだ。徹底した燃費走行が功を奏した格好ながら、速さはまだ今ひとつ。このへんの磨き上げが、テクノファーストやサードレーシングともども必要となろうが、今後の可能性を高く示すこととなった。なお、#39 SARD Racing RC350のリタイア原因はブレーキトラブル。それも1コーナーで突然効かなくなり、平手晃平のとっさの機転で大事には至らなかったが、ヒヤリとさせられる光景ではあった。
ランキング2位から4位は、OKABE JIDOSHA motorsportsのZ34が揃ってランクイン。特に#14 岡部自動車DIXCELチームテツヤZ34の長島正明/田中徹/田中哲也組は、#34 asset ings テクノRC350に5ポイント差にまで接近。まだまだ予断を許さぬ展開が続きそうだ。そして、速さは確実にありながら、展開に恵まれないのが#38 ムータレーシングTWS IS350の植田正幸/阪口良平/堀田誠組。今、誰より阪口が優勝を欲している。
毎回入れ替わるウィナー、しかしST-4クラスのランキングトップは?
ランキングトップから6位までの差が、わずか7.5ポイント。しかも毎回ウィナーがST-4クラスでは入れ替わり、台数の多さだけでなく、バトルの激しさでも最激戦区になっている。第1戦を制したのは#58 ウィンマックスTEINワコーズKRP☆DC5の小林康一/塩谷烈州/ピストン西沢組ながら、第2戦のリタイアが響いて目下4位。第2戦を制した#13 ENDLESS ADVAN 86の山内英輝/村田信博/島谷敦史組も5位、さりとて第3戦を制した#95 孚海國際×SPOON S2000の松井猛敏/中島保典組も2位という状況の中、トップに立っているのは#52 埼玉トヨペットGreen Brave 86の番場琢/服部尚貴/平沼貴之組だ。
勝ってはいないものの、3位、2位、4位と確実に高得点を稼いでいるのが、トップである最大の理由。もっとも2位の#95孚海國際×SPOON S2000とは、たった0.5ポイント差でしかなく、当然安泰であるなどとは思っていないだろう。不動の地位にするには、勝つ必要があるし、このクラスでいちばん勝ちたいと思っているのは間違いない。まぁ、このクラスに関しては一戦ごと順番など、ガラリと変わっていくのだろう。意外な結果が最後に待ち構えている可能性とて、あるに違いない。
最多リードはST-5クラスの#69 BRP☆J’S RACINGフィット、実に23.5ポイント差!
3台のフィット3による激戦が続いているという印象の強いST-5クラスながら、ポイントランキングを実際に見て、『あれ?』と思ったのではないだろうか。確かに#69 BRP☆J’S RACINGフィットの大野尊久/梅本淳一組は2勝を挙げているが、#2 ホンダカーズ野崎with CUSCO&BOMEX FITの山下潤一郎/山田英二/加茂新組とは23.5ポイント、#19 BRP☆J’S RACINGフィットの古宮正信/奥村浩一/新垣元組とは27.5ポイントもの差をつけている。その最大の理由は、他のフィット勢が一戦ずつリタイアしているためだ。全戦有効のポイントシステムでは致命的でさえあり、もはや他力本願的に『あっちもリタイアしてくれまいか』と思っていることだろう。
#69 BRP☆J’S RACINGフィットは、助っ人が効果的に機能しているのも特徴で、第1戦は井入宏之が、そして第2戦はチャールズ・カキンが、そして第3戦はこのふたりがレギュラーのふたりをしっかりアシストした。今回は井入が加わり、また見せてくれるであろう激走に期待がかかるが、このまま突っ走られても……という思いも少なからずある。ライバルチームには一泡吹かせるほどの、抵抗を期待したいものだ。
今回は3時間レースではあるが、冒頭でも触れたとおり暑さ厳しき中での戦いとなるため、観戦する方には絶対に暑さ対策を欠かさないことをお願いしたい。できる限りの快適装備と、徹底的な水分補給で、夏休みの思い出として、レースを思いっきり楽しんでほしいものだ。
(はた☆なおゆき)