第7戦プレビュー
二回目の九州決戦、2クラスに残されたタイトル争いの行方は?
昨年、初めてスーパー耐久が開催された九州、オートポリス。風光明媚で、全国でも屈指の難コースとも言われるオートポリスのオープンは1990年であり、91年からN1耐久としてスタートしたシリーズの歴史とほぼ重なっている。だが、地理的な要素や、なによりオートポリスが辿ってきた数奇な運命により、過去何度か候補に挙がったことはあるのだが、ようやく昨年から開催されることになった。
スーパーフォーミュラとスーパーGTを比較するまでもなく、九州はツーリングカーレース、とりわけ手の加えられる「ハコ」の人気が高い。例えば、オートポリスで行われるゴールドカップにはツーリングカーというレースが設けられており、用いられる車両は基本N1なのであるが、同じメーカーであればエンジンの換装が許されるクラスもあり、また現状フル参戦はなくてもN2、もしくはGTでも走れるクラスが存在する。
それよりもっと歴史をたどると、オートポリス誕生以前にはジムカーナやダートトライアルに、かなりレベルの高い改造車が走っており、全国的な大会では常に注目されていたものだ。そんな背景もあるだけに、昨年のレースも反響そのものは悪くなかったものの、いかんせん天気に恵まれなかった。
凍てつくような寒さに、霧と豪雨。タイムスケジュールが大幅に変更された上に、3回のセーフティカーラン。わずか25周でレースは終了となったことを、まだ記憶に留めている方もいるだろうが、それでも11周はバトルモードだったことが何よりの救いだったか。今年こそ好天の下で開催されることが期待される。
連勝なるか、地元のTEAM MACH!
シリーズと玉中哲二の、浅からぬ因縁とは
三度のSC(セーフティカー)ランを巧みに利用、まさに戦術の妙によってオートポリス初のスーパー耐久を制したのは、玉中哲二/山野直也組のマッハGoGoGo車検458GT3だった。スポット参戦ながら、地元チームの優勝とあって大いに話題を集めた。さて、玉中といえば現在もスーパーGTを戦うドライバーで、スーパー耐久とは縁が薄いという印象があるだろう。だが、この時が初参戦ではない。96年の3月、MINEサーキットが舞台の第1戦に出場しているのだ。しかも、パートナーはあの谷口信輝! 本格的にレース活動を谷口が開始したのは01年からだから、ドリフトの名手として全国に名を上げ始めた時代となる。
そして、このレースが谷口にとってデビューレースとなるのだが、このコンビは継続されることはなかった。というのも、それからほぼ1か月後、玉中がフォーミュラニッポンにデビューしたからだ。「フォーミュラトヨタを卒業して、次に何をやろうかとなった時、スーパー耐久も選択肢のひとつだったんだけれど、せっかくトップフォーミュラに出られる機会を得たんだから、そっちに専念すべきだと当時は考えてね」と玉中。
谷口の才能を誰より早く見出していた玉中、もしこのコンビが継続されていれば、ふたりにとってまた違ったストーリーも築き上げられていたのではないだろうか?
谷口信輝不在の中、連覇なるか#1 PETRONAS SYNTIUM SLS AMG GT3
チーム内バトルが最後まで熱い!
しかし、その谷口の姿は今回のオートポリスにはない。同日にお台場で行われるD1グランプリに出場するためだ。さまざまな事情があり、また谷口自身も断腸の思いでの決断だと述べていたから、ここでは多くを語るまい。谷口がメルビン・モー、ドミニク・アンとともに駆る、#1 PETRONAS SYNTIUM SLS AMG GT3はランキングのトップ。片岡龍也とファリーク・ハイルマン、ジョノ・レスタの#28 PETRONAS SYNTIUM SLS AMG GT3とは、14ポイントの差がある。
ということは、仮に片岡組のポール・トゥ・ウィンを許したとしても、モー組は5位でゴールすれば連覇達成ということになる。その意味では余裕ながら、もしトラブルにでも見舞われようものなら。少々のトラブルなら、修復してコースに戻すチームだけにリタイアはまずあるまいが、要は間に4台以上挟まないことが大前提だ。手堅く行くのなら、あらかじめオーダーも出されるだろうが、PETRONAS SYNTIUM TEAMがそれを出すはずもなく、常に勝負は鉄板! 片岡組は戴冠ならずとも、優勝で一矢報いてやろうと絶対に考えている。
このタイトル争いを、間違いなくかき回すのが2台のGT-Rだ。#24スリーボンド日産自動車大学校GT-Rは前回限りで今季の活動を終了したが、星野一樹と青木孝行、そして尾本直史の#81 GTNET ADVAN NISSAN GT-R、さらには引き続き玉中と山野のコンビで挑む#555マッハGoGoGo車検GT-Rが、手ぐすねを引いているのは間違いない。「速いけれど、勝てない」というGT-Rの悪しき印象を覆すためにも、この一戦に勝負をかけてくるはずだ。
その差3ポイント! やっぱりランサーVSインプレッサあってこそ
なるかRSオガワの4連覇、TOWAINTEC Racingの10年目の悲願成就は?
すでにFaust Racing Teamがチャンピオンを決めていることもあり姿を見せず、残念ながらST-1クラスは不成立となってしまった。このクラスは再び活況を取り戻すため、来季は車両的なてこ入れもあるとか。ともあれ、不成立の寂しさを埋めて余りあるのが、ST-2クラスの激しいチャンピオン争いだ。1位と2位の差は、たった3ポイントしかないのである!
開幕戦が降雪のため中止になり、第2戦は年間エントリーの車両が参加せず、実質第3戦からの戦いとなったが、その緒戦で大橋正澄、阪口良平のWエースを擁する、#20 RSオガワADVANランサーがセルモーターのトラブルで優勝戦線から脱落。続く富士でも同様のトラブルに見舞われる。その間に連勝を遂げたのは、大澤学、吉田寿博、松田晃司の駆るSTURM MOTUL EDインプレッサだった。もちろん、棚ボタではなく速さでも優って挙げた連勝とあって、さすがのRSオガワ小川日出生代表にも焦りの様子が見受けられたもの。
だが、第5戦・岡山で逆襲の一発を放った大橋組は、鈴鹿でも3レースのうち2レースを制し、追う立場から追われる立場に返り咲く。昨年は出場していない大澤組、影響はどれだけあるのだろうか。そのあたりがまず焦点になりそうだ。きっと細かい計算はいらないだろう、先にゴールした方に栄冠が輝くことは確実である。
なお、このクラスには第2戦で優勝を飾ったランサーエボXで、NDSレーシングセクションがスポット参戦する。ドライバーの中川あやと大塚隆一郎はオートポリス育ちのドライバーで、コースの隅々を知り尽くしているだけに、期待の存在だと言えそうだ。
チャンピオンチームは有終の美を飾れるか?
それとも一矢報いるチームが。最終戦を消化試合に絶対しない!
ST-3クラス、ST-4クラス、そしてST-5クラスは前回の鈴鹿でタイトルを獲得。それもレースごとに決めるという、憎い演出までしてくれた。まず第1レースで決めたのは、ST-3クラスで#80 PETRONAS TWS GS350をドライブする佐藤晋也、吉本大樹、脇阪薫一のトリオだった。第4戦まで土つかずの快進撃を重ねていたが、第5戦で佐々木雅弘、前嶋秀司、安田裕信の#34 assetテクノZ34に連勝を止められてしまう。しかし、それまでに築き上げてきた大量のマージンがものを言うことに。
だが、有終の美だけは飾らせてなるまいと、佐々木組のテクノファーストレーシングチームを筆頭に、OKABE JIDOSHA motor sportもTRACY SPORTSも強く感じているはずだ。ライバルの3チームとも複数エントリーとあって、それこそOTG Motor Sportsに包囲網を引いてでも勝とうと、全力の戦いに挑むのは必至である。
そして鈴鹿の3連勝で決めたのがST-4クラス。#41 TRACY SPORTS ings S2000を駆る、植松忠雄、井入宏之、長野賢也が誰ひとりとして一度もトップを明け渡さずとは、そうそうできることではない。その勢いは、果たしてこの最終戦まで保たれるのか?
目下、ランキング2位で、#58 ウインマックスTEINワコーズKRP☆DC5を駆る小林康一と木下淳は、その座を確固としたものとするためにも、もう1勝が喉から手が出るほど欲しいはず。そして、同日開催のGAZOO Racing FESTIVALをあえて欠場してまで挑む、#86 GAZOO Racing TOYOTA 86の影山正彦と井口卓人は、それこそ勝って戻らなければ、どんな責め苦が待ち構えているか。さらに予選での速さがなかなか決勝結果に結びつかずにいる、松井猛敏と中島保典、そして今回はたしろじゅんを加えた#95 リジカラS2000は、負ければ切腹覚悟の戦いに。思いの強さは、きっとそのまま決勝結果として表れるのでは?
そして、鈴鹿の第2レースで決めたのが、ST-5クラスの#19 BRP☆HYPER ECU C72制動屋J’Sフィット。ただし、チーム代表を兼ねる奥村浩一は、そのレースは2位だったこともあり、「勝った!」という思いを渇望している。そのためにも古宮正信、そして初参戦の恩塚将一とともに、有終の美を飾ろうと躍起になってくるはずだ。そして、その強い思いを逆手にとって……。連覇を阻止された悔しさをぶつけてくるのは、#36 エンドレスアドバントラストヴィッツを駆る、後藤比東至と井尻薫、そして木村正治の3人。あくまでクールに挑んで、逆襲を目指す。
また、鈴鹿の第1レースでは#99 RS☆R DIXCEL NUTECデミオがRYU1のドライブで初優勝。今年になってデミオの進化が著しいだけに、野上敏彦/小原健一/野上達也の#17 DIXCELアラゴスタNOPROデミオともども、もう1勝を加えられるか、大いに期待される。
(はた☆なおゆき)